新春特別企画 対談
ムラサワデザイン 家具デザイナー 村澤一晃さん
× 北極しろくま堂店主 園田正世、コーディネーター 平野雅彦さん

北極しろくま堂ではオリジナルスリング「キュット ミー!」が2009年グッドデザイン賞を受賞しました。この度の受賞を記念して、これまでイスを中心とした製品でグッドデザイン賞を数多く受賞されている家具デザイナー村澤一晃さんと北極しろくま堂店主園田の公開対談を開催いたしました。
一見全く違うジャンルの家具づくりと子守帯づくりの意外な共通点や、ユーザーの声を取り入れたデザインの構築に関してまで、非常に興味深い内容となりました。
二人のもの作りとデザインに対する想いや姿勢をじっくりお楽しみください。

新春特別企画 対談「使い手の声をデザインする」第一部はこちらから


安全性と制限されるデザイン

平野
デザインというものはオリジナリティが求められるものだと思うのですが、村澤さんはどのような部分をこだわってデザインされているんでしょうか。

村澤
イスは元々はヨーロッパやアジアでは中国で権力者のための道具として使われていました。だからごつくて大きいものが多かったんです。ヨーロッパのイスは床から座面までの高さが45センチあるんですが、私のデザインするイスは41センチで作ってあります。よくある話なのですが、輸入家具を扱っているお店で試しに座った時は特にそうは感じないのですが、買って家に帰って座るとなにか違和感がある。なぜかというと家具屋さんでは靴を履いていますよね。だから家に帰って靴を脱いで座ったときにお店での感覚と違ってしまうんです。靴を脱ぐという日本独特の文化的な背景があるので、たかだか4センチの高さの違いだけをとっても十分オリジナリティのあるデザインだと思っています。イスは家具屋で使う商品ではないですので。だから、おんぶひものDカンが当たって痛いという声に対してクッションをつけるというのも使い手の声を大切にしたオリジナルデザインなんだと思いますよ。あと、私の作るイスは比較的座面が大きいですね。

園田
たしかに少しがっちりした印象がありますね。

村澤
実は私は家でいすに座ると片足をあげて座ったりするんです。それがしばらくするとあぐらになっていったり。日本人だなあって思います。だから自分でデザインするとあぐらでも大丈夫なようにこのような幅に作ってしまうんです。これじゃないと安心できないんです。今大学でも教えているのですが、イスの上で正座する生徒をたまに見かけるんですよね。

園田
ああ、いますね(笑)。
 
村澤
あとイスの上で体育座りしたりする人も。色んな座り方があっておもしろいなと思います。だからイスもそれだけバリエーションがあっていいんじゃないかと思っています。使い手の行動観察をしているとおもしろいですよ。ただ頭でっかちに考えすぎると、あっちこっちに機能をつけてという話になってしまう。例えば動きやすいようにキャスターをつけるとか。そんなもの必要ないんじゃないかと思ってしまいます。そこまでいくとイスの形じゃなくなる気がするんですよね。
 
園田
どこでストップさせるかは大切ですよね。さきほどお見せしたタイプのおんぶひもは昭和40年くらいからは「赤ちゃんを落としそうで怖い」という声が増えていったそうで、足入れをつけるようにしたそうです。実際視覚的な印象だけで、足入れをつけたからと言って何も変わらないのですが。また、「胸が強調されていやだ」という声が多くなってきたからリュックサック式に変わっていったという流れもあります。リュックサック式にすることによって肩にかかる負担はかなり大きくなってしまったので、ユーザーの声を聞きすぎた結果残念ながら良くない方向に変わってしまったようです。

村澤
うんうん。確かに足入れまではいらないんじゃないかと思いますね。

園田
基本的に風呂敷の使える日本人はスリングやおんぶひもを使いこなせると私は思っているんです。スリングでも色んな安全ベルトをつけている商品はあるんです。そうなってくるとただ安全に運べればいいだろうという感覚になっている気がしますね。赤ちゃんを抱くという行為と運ぶということは私は違うと思っています。

村澤
今タンスにはどういう説明書をつけているかご存知ですか。「引き出しを開けたら体重をかけないでください」と書いてあるんです。開けた引き出しに力をかけたら倒れるのは当たり前じゃないですか。でも当たり前のことに説明をつけないといけない時代になっているんですよね。それがデザインにも影響して倒れにくい、どっしりしているというのが大前提になってしまうんです。何か事故が起こったら困るからという前提でデザインすると、使い手とのコミュニケーションはどんどん分断されていって、安全にしてさえいればいいんだろうということになってしまいます。

園田
電子レンジに猫を入れないでというのと同じですよね。(笑)

村澤
ははは、そうです。こちらが当たり前でしょと思っていることが通用しないと形もデザインも制限されていくので、あえてそこに挑戦していきたいとも思いますね。だからここは分かってほしいなということを家具のデザインの中に落とし込んでいくこともあります。

風呂敷のようなイス

平野
私たちってイスに座ることによって身体の形がデザインされていますよね。ということは身体に与える影響というのはある意味とても責任重大で、デザインが片方にあるともう一方には機能性があるという部分で決着をつけていくのが難しそうですね。

村澤
その決着はなかなかつけられないと思います。私は今1時間座っていますが1時間じっと止まって座っている訳ではありませんよね。
 
園田
時々体勢を変えますよね。
 
村澤
ええ。ヒトって本質的にじっと座っていられないんです。だから座り心地がいいデザインを突き詰めても仕方がないと私は思うんです。こうやったら座り心地がいいよね、というデザインをしてもその姿勢のままいられるのは、たかだか5分程度なんですよ。だから座り心地を追求するよりは、体勢を変えるということをも受け止められるデザインであるべきだと思っています。例えば「この角度がいいよね」といっても私と君ではその「いい角度」が違う訳なんですよ。
 
園田
確かに体調や気分によっても座り方が違うかもしれません。飲み物を飲む時と、本を読む時も。きっとその状況に合わせながら気持ちのいい場所を探っているんですよね。

村澤
そうそう、その探り具合がおもしろいところですよね。さきほど風呂敷とおっしゃっていましたが、まさに風呂敷がそれだと思います。風呂敷というのはどれをとっても形は変わらないものですが、中に包まれるものによってあれだけたくさんの包み方があるんですよね。その使い方の幅が日本独特の文化なんですよ。ヨーロッパの家は、フォーマルに食事をする部屋があり、くずれてお酒を飲むラウンジがあり、部屋の数だけイスをデザインしても有り余るほどの広さなんです。だから食事をするときは行儀よく、イスの上であぐらをかくなんてことは考えられないんです。ところが日本では食卓のイスで食事の後に新聞を読むし、お茶も飲むし、テレビも見る。私は風呂敷のようなイスをデザインしてみたいなと思っているんです。

園田
いいですね、風呂敷のようなイス、ぜひ実現してほしいです。

村澤
昔読んだ本で和服と洋服の違いが座布団とイスの違いと同じだと論じている人がいたんです。着物は人間の形をしていないんですね。つまり反物からあるギリギリのラインで縫製されたものですから。対して洋服というのはヒトの形をトレースして(なぞって)いるんです。だからヒトの形をしている。それが座布団とイスの違いと同じで、イスもヒトの形をある程度はトレースしているんです。例えば座るときどういう角度かというのは人間工学的な角度なんです。座布団にはそれがないんですよね。同じ座るという行為を対象とするとき、その中間地点ぐらいが一番おもしろいのかなと。座布団に近いイスというのはどうでしょうか。

園田
それはおもしろいですね。座るという行為を自由にする新しい形ができそうですね。

デザインとはものの価値を提示すること

村澤
私はスリングを使ったことはないんですが、初めて見たとき「こんなに自由でいいんだな」って思ったんです。なんだか風呂敷的ですよね。包み方が様々だというのはもしかしたら私たちが持っている非常に根強い文化なのかもしれませんね。

園田
こちらは兵児帯というただの4mの帯なんですが、巻き方やしばり方を変えることによっておんぶやだっこができるんです。これを自在に使いこなすというのはすごく日本的で、きっと欧米の人にとっては結構難しいんじゃないかと思います。そしてひとたび地震がきたら避難ロープになるし、切っておむつにもできる。こういうのを作っていくのは楽しいですね。でもこれ自体にはデザインはなくて、これをどう使いこなすのかがデザインなのかなと。
 
村澤
デザインという言葉の誤解みたいなものがあって、デザインって形を作らなきゃいけないと思いがちなんですが、私はものの価値を提示することがデザインなんだと思っています。だからこの帯のように形をギリギリのところまでなくしたとしても、それはデザインだと思うんですね。一本の帯がだっこひもやロープやおむつになるというのは、ものの価値がボーダレスになるということですよね。使い手の工夫によって何にでもなるという。

使い手と共に原点回帰

平野
使い手に工夫をしてもらう、手間をかけてもらうというのは便利さからは離れていくような気もするんですが、作る側はそれを使い手に伝えるという手間も生じてきますし。その部分はいかがでしょうか。

村澤
少し前までは家具の仕上げというのはウレタン塗装というテカテカの塗装が重宝されたんですね。水や汚れに強いという理由で。それが最近は無垢というのが流行っていて、このイスも全て蜜蝋ワックスという無塗装に近いワックスで仕上げてあるんです。これは水などをあまりはじきません。だから濡れたことによってできる輪染みなどができやすいんです。しみを作らないために濡れたら拭くという手間がかかります。しかし濡れたら拭くというのは本来当たり前なんですよね。無垢が流行ってきたというのは、そんな原点をもう一度使い手と一緒に考えていくという意味なのかなと思っています。大変なことかもしれないけれどそんな使い手とのやりとりが楽しいですよね。
 
園田
回り道をしているように見えるけれど、使い手とのコミュニケーションを通してものの価値の本質をデザインしていく、というのが作り手に求められていることなのかもしれませんね。

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村澤一晃さんプロフィール

村澤一晃さんプロフィール
1965年6月25日 東京生まれ。ICSカレッジオブアーツ卒業。垂見健三デザイン事務所を経て、89年イタリアに留学。90年よりセルジオ・カラトローニデザイン建築事務所(ミラノ)に勤務。家具デザイン・インテリアデザイン・展示会会場デザインを中心に担当。94年ムラサワデザイン開設。

ムラサワデザインホームページ 
http://www.murasawadesign.com/
村澤さんの股旅な日々が綴られた「股旅デザインブログ」
http://blog.matatabidesign.com/


平野雅彦さんプロフィール

図書館や博物館の立ち上げ、ブックアートギャラリーの企画・運営、出版、企業のキャンペーンやキャラクターデザイン、ブランディングなどの企画に参画。講座・講演、各種審査員多数。テレビやラジオのコメンテーター、NHK本の紹介番組などにレギュラー出演。国立大学法人静岡大学 人文学部 客員教授。

ホームページ 
http://www.hirano-masahiko.com/


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次号予告

シャリっとだっこ、ふんわりおんぶ
北極しろくま堂のオリジナル楊柳(ようりゅう)地、クレープシリーズはその独特の風合いが特徴です。
インターネットでは触って確かめていただけないのが残念なほど。
写真でお伝えでき得る限り、その質感を感じていただきましょう。

キュット ミー!の困ったを解決♪その2
お悩み解決シリーズ第2弾は「怖くて両手が離せない!」。
「え?スリングしてて両手が離せるの?」と思った方は必見です!


編集後記

店頭に春がきました 
特集でご紹介した花染めスリングが直営店の店頭にも並んでいます。
同時発売された「パウダーフィオーレ」と「コーラルベリー」とともに並べると、その棚の一角だけとっても明るく花が咲いたようになりました。
「花染め」のパステルカラーは、眺めているとなんだかおいしそうにも見えてきます。
まだまだコートが手放せない季節ですが、明るい配色のスリングで気分だけでも「春」を味わいませんか?
SHIROKUMA mail editor: MK

EDITORS
Producer Masayo Sonoda
Creative Director Mayu Kyoi
Writer Mayu Kyoi, Masahiko Hirano
Copy Writer Mayu Kyoi, Masahiko Hirano
Photographer Yasuko Mochizuki, Yoko Fujimoto, Keiko Kubota
Illustration 823design Hatsumi Tonegawa
Web Designer Chiharu Suzuki, Nobue Kawashima(Rewrite)

☆Happy Nurturing☆
HOKKYOKU SHIROKUMADO
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