いまどきおんぶする人はいるの? と疑問に思う方もいるかもしれません。はい、いらっしゃいます。おうちの中だけでおんぶするから、おんぶ姿を見ることがないだけです。古くからおこなわれていた「おぶう」という育児行為は令和の日本でも現役です。

おんぶ紐の種類

おんぶができるもの、おんぶする道具として使われてきたものをご紹介します。

“昔ながらのおんぶひも” 背あて・頭あてつきタイプ

背当て・頭あてつきのおんぶひもはおんぶが初めてで、赤ちゃんが1歳より小さい方にお勧めです。昭和30年代の型紙をリバイバルさせて製作しました。頭あては取り外しできます。背当てがついているのではじめておんぶする方にも使いやすいです。現代の親御さんにも違和感のないデザインになった実物はこちらでご確認ください。

おんぶしながら掃除をする女性

月齢が小さな赤ちゃんは背中で寝てしまうことが多いので頭あてがあると安心できます。寝てしまった時にもスムーズにお布団におろすことが可能です。
腰ひもにはDカンがあばら骨にあたっても痛くないようにクッションがついています。お尻の当てがひろいので股関節脱臼防止にも役立ちます。頭あてを外して使うこともできます。
北極しろくま堂ではたくさんの色柄をご用意しています。
お洗濯はご家庭でできます。頭あてははずして手洗い、本体はネットに入れて洗濯機で洗えます。

へこおび、帯

着物をきてすごしていたかつての日本の家庭には、細長い布がたくさんあったようです。それを「今日からこれをおんぶのために使う」と決めて、用いた地域が多かったそうです。

今では子どもの浴衣などでよく使用される兵児帯(へこおび)。もともとは正絹(しょうけん)でできていました。幅は着物の生地幅で長さ4メートルくらいあり、男性が着流しする時にもよく用いられていました。
北極しろくま堂では赤ちゃんにも優しく選択しやすい綿100%のしじら織りという生地を採用し、現代版兵児帯を再現しました。生地に細かいしわがあるのでずれません。通気性も抜群です。このおんぶ用兵児帯の長さは4.5メートルありますので、大柄な方や男性でもご使用いただけます。どのおんぶひもに比べてもフィット感は抜群ですが、はじめておんぶ育児をする方には長さに慣れないこともあります。ご家庭でネットに入れて洗濯機で洗えます。

兵児帯のルーツは薩摩藩の少年兵が使っていた簡単な帯で、それが全国に広まっていきました。マンガ『サザエさん』で波平さんが帰宅後に着物に着替えるときにリボン結びの帯をしめることがありますが、それが兵児帯です。

磯野波平の兵児帯(へこおび)
リボンのように結んでいるのが兵児帯(へこおび)
出典:https://www.fujitv.co.jp/sazaesan/character.html

昔はおんぶしかしなかった兵児帯ですが、巻き方によっては抱っこもできます。それも新生児から!こんな感じです↓
両肩で支えるのでほんとうにらくですよ。商品はこちらから見てくださいね。

1本紐タイプ

驚かれることがありますが、柔道の帯のようなシンプルなおんぶひもです。幅は7センチ程度で長さは4メートルほどあります。ちゃんと商品としてもつくっていますし,実際に売れています! こちらです。

これだけでおんぶができますが、ひもの中心にバスタオルをひっかけて赤ちゃんをくるむようにしておんぶすると、バスタオルが大きな背あてがわりになり安定感抜群で保温や落下防止にもなります。
ご家庭でネットに入れて洗濯機で洗えます。

おんぶひもの歴史

乳母車がなかった頃、赤ちゃんを移動させたり仕事に同行させるにはどうしていたのでしょうか?日本では絵巻物などをみると、赤ちゃんを抱っこしているのは授乳や遊びの間だけで、出掛けている様子(例えば、買い物風景や農作業など)ではおんぶしている姿が描かれています。

江戸時代末期から明治以降になると写真技術が発明され、日本の風景も写真に撮られるようになりました。その頃は子どもが赤ちゃんをおんぶして子守をしている姿が好まれて撮影されたようですが(例えば、エドワード・モースの写真など)、おんぶ行為が欧米では珍しく、更に子どもが赤ちゃんの面倒をみるという風習が奇異に感じられたようです。

どの社会でも子どもを連れて歩く文化圏ではおんぶが多用されていました。自分の体の前では仕事をし、背中で子どもを育てる選択をしてきたのです。
そして、多くの国では「身近にある道具」を用いておんぶや抱っこをしていました。アフリカではパーニャやカンガと呼ばれる大きな布、アンデスではカラフルな繊維で織った織物。アジアでは帯と表されるような細長いもの。日本では着物の一部やさらしなどが使われてきました。
昭和初期ごろまでは東北地方の寒い地域では、着物の中に赤ちゃんをおんぶして保温している姿も日常的に見られたようです。ねんねこ半纏(ばんてん)や亀の甲はおんぶ時の保温用に作られたものですが、着物系は使い終わると仕立て直しができるので、一時的におんぶ専用でつくったようです。

戦後すぐに創業した(株)トリゴエ(東京都江戸川区:現在は廃業)の話によると第2次世界大戦直前もしくは直後に背当てがついたおんぶひもが開発されたそうです。(その原型を復活しているのがしろくま堂の「背当てつきおんぶひも」)
ところが昭和40年代に入るとおんぶのやり方がわからないという消費者からの声が寄せられるようになり、赤ちゃんの脚を入れる輪っかがつけられました。
その後赤ちゃんのお尻があたる部分がメッシュになったり、お母さんの胸を強調してしまうようなバッテンひもが姿を消していきました。

昭和61年(1986年)に元歌手の山口百恵さんが赤ちゃんを前抱っこで育てていることがマスコミで報道された頃から、おんぶひも自体の消費量が激減し、外出時に使うものがおんぶ紐から前で抱っこする抱っこ紐に移っていきました。

北極しろくま堂では2002年にお客様からの要望を受け、昭和30年代の型紙をもっているトリゴエさんに製作を依頼するかたちでシンプルなおんぶひもを復刻しました。オリジナルの型紙は50年以上前のものです。当時の女性は着物で過ごしていた人が多かったので、型紙そをのままにすると腰紐がかなり長くなってしまいました。そこで腰紐の長さを現在の女性の体型に合うように直したり、あばら骨に部品があたらないようにクッションをつけました。コーデュロイで作ることが多かったおんぶひもも、現代のファッションセンスに合うように生地を選びました。

「今、おんぶしてる人なんて見たことない」とよく言われるのですが、私たちは家事をこなすにはおんぶひもがだんぜん有効で、シンプルな形だからこそ使いやすいと信じています。ただ、昔のようにおんぶ姿で外出する方が少ないだけなのです。赤ちゃんはいつの時代でもお母さんや信頼出来る人にふれあって育っているのです。

まとめ

いかがでしたか? 日本のほんらいのおんぶは赤ちゃんの脇で支えるものです。脇で支えながら背中(と赤ちゃんのおなか)全体で体重を分散させます。そのために,首がすわった4ヶ月くらいででおんぶすることが可能でした。
ところが脚をいれるホールがつくられ,背あての上にお尻でドスンと座るようになると脇で支える状態にはならないために,「腰がすわってからの使用」がいわれるようになりました。お尻基準になると高い位置にはおぶいにくいため,家事をやっていても赤ちゃんは親がやっていることを観察することができません。

おんぶは日本で長くおこなわれてきたすてきな育児行為だと思います。これからも続いていってほしいものです。