北極しろくま堂メールマガジン

【特集】店主・園田の正世のアメリカレポート

vol.1 世界で人気のベビーウェアリングは?


2008年の6月25日から4日間、アメリカ・シカゴにおいて、抱っことおんぶの世界会議「Babywearing Conference 2008(ベビーウェアリング カンファレンス2008)」が開催されました。
Babywearing Conferenceというのは、アメリカを中心にスリングやMei Tai、ベビーラップ(*)を扱っているメーカーや販売者、抱っこを研究している学者さん、抱っこ大好きなお母さん達が集まって会議をするものです。2年前にアメリカのポートランドで始まったこの会議は今回で2回目。北極しろくま堂店主の園田が出席しましたので、そのときの様子をお伝えします

*ベビーラップとは:兵児帯のような長い布を使って抱っこやおんぶをするやり方。メーカーもいくつかあり、伸縮性がある布を採用しているところが多い。

(2006年第1回会議出席時の様子は、こちらから)

初日の6月25日は、朝から知的財産権に関するセッションに申し込んでいました。電車を乗り継ぎ、会場のDePaul Universityに向かいました。この大学はシカゴ市内にたくさんの校舎が分散していて、私たちが行ったのはそのなかでもミシガン湖に近いステューデントセンターというところでした。このカンファレンスを主催するのはシカゴのお母さんたち。ボランティアでの活動ながら、大学側と交渉して会場を確保することからはじまり、4日間の充実したプログラムを組み、資金を集め、スムーズに運営できるように心を砕いていました。
会議のテーマはbabywearing(赤ちゃんを身にまとうこと=比較的密着して抱っこやおんぶすること)に関することなら何でもOKで、ビギナー向けから専門的な話まで様々に用意されていましたが、このメルマガでは、今みなさんが一番知りたいであろう、抱っこひもとおんぶひもの「世界の流行」をレポートします。

人気第1位はスリング! ではないんです

このカンファレンスには、世界各国からbabywearingのヘビーユーザーが集まってきます。新しいものや珍しいものに目がなく、気に入ったものはいくつでも揃えるといった人たちが多いので、そういう感覚と読者の皆さんとの興味は若干違うかもしれません。
さて、そのbabywearing大好き人間とも言えるヘビーユーザーの中でもっとも使われている抱っこひもは……Mei Tai(当社の商品では「タートリーノ」)なんです。
スリングの利用者が1とするならば、Mei Taiはその2倍という印象です。Mei Taiは抱っこもおんぶもできる優れものですが、ほとんどの方は抱っこで使用していました。
次にくるのがリング付きスリング。ただし、アメリカのスリングは簡単な構造のものが多いので「キュット ミー!」のようなパッディングスリング(中綿付きスリング)は少数派でした。その次にPouches(パウチ)と続きます。
Pouches(パウチ)というのは、カンガルーの袋のことで、リングなしスリングが英語圏ではそう呼ばれています。
Sling without ringsとは言わないんですね。


これがMeiTai

ヘビーユーザーで人気のスリング

(園田調べ)

1位  Mei Tai(=タートリーノ)
2位  リング付きスリング
3位  Pouches(パウチ)=リングなしスリング

その他には、日本ではあまり見かけないラップタイプの布を使っている人が何人かいました。

展示ブースは、カラフルな色柄の商品があふれていましたが、日本人の服装と合うかどうかというと…ちょっと難しいな、と私は思いました。まぁ、私は定番スタイルをどうしても好みがちなので、あまり参考にならないかもしれません…。


2年前に参加したときMei Taiは、まだ出始めという感じで、流行を先取りした人を中心に見かけましたが、出展業者の数はそれほど目立っていませんでした。当時は、スリングの業者が一番多かったです。しかし今年は、Mei Taiとスリングの業者は肩を並べるくらいになっていました。Mei Taiは、それほど使いやすい抱っこひもだという証なのでしょう。


展示・販売ブースの様子

個人的な大ヒットはイヌイットのコート

世にあるbabywearingグッズの中で、私としては構造がわからなくてずっと気になっていたものが極寒地に暮らすイヌイットのコートでした。話には、コートのフードに相当する部分に赤ちゃんが入り、赤ちゃんはそこから外に出ることなく授乳できると聞いていました。『背中にいた赤ちゃんが狭いコートの中でどうやって胸まで移動できるのかな?』『フードに赤ちゃんが入っていたら、おんぶしている人の首が苦しくないのかな?』と、いろいろギモンだらけ(皆さんも想像してみてください。)だったのですが、実際に展示ブースでそれを販売している方がいたんです! それを見つけた時の感動といったら! それはもう砂漠でオアシスを見つけた喜びとでも言いましょうか。カンファレンスで実物に出会えるとは思っていませんでしたから、とても感激しました。


イヌイットのコート

コートを見せてもらうと、フードとは別に赤ちゃんが入るスペースがあり、それは外側についている紐を使って大きさを調整できるようになっていました。実際に試着させてもらい赤ちゃんを入れてみると、首は苦しくなく、上半身全体で赤ちゃんの体重が支えられるので、あまり重さを感じませんでした。脇部分にゆとりが多く、小さい赤ちゃんはそこを移動して授乳をするそうです。小さな赤ちゃんが寒い外気にあたることなく授乳できる工夫なんですね。なるほど〜。生活の知恵ってすばらしいな。もちろん1枚オーダーしてきました。狩猟時期(これまた、ほんとにイヌイットの生活リズムですよね)が終わったら製作に入ってくれるそうです。コートは秋になったら届きます。ああ、楽しみ!


フード部分。体に密着する側に赤ちゃんが入る

vol.2 今、世界のベビーウェアリングの研究は?


第1回目のレポートでは、北極しろくま堂流のbabywearing(ベビーウェアリング)の世界ランキングを発表し、Mei Taiのめざましい躍進やイヌイットコートに感激した様子をお伝えしましたが、今回はカンファレンス(会議)から見えてきた、babywearing研究の現状を、わたし北極しろくま堂店主園田正世がお伝えします。

世界の研究者

babywearingというのは「赤ちゃんを身にまとうこと」です。身にまとう方法はいくつもあります。密着した抱っこやおんぶ、衣服に入れる(出産後に行うカンガルーケアもこのひとつです)、布等を使って体に縛り付けるなどなど。カンファレンスでは主にこの道具についての議論が交わされます。

世界にはbabywearingを研究している方が何人かいます。オーストラリアでbabywearingのポータルサイト TheBabywearer.com(略してTBW)を開設したジェニーは2児の母。babywearingが母親に与える影響を研究するため大学院に在籍しています。特に産後うつとbabywearingの関係に興味があるそうです。
コロラド大学のキャロルも子育て中のお母さん。文化人類学の視点からbabywearingを研究しています。カンファレンスの中で彼女は、キャリング(ここでは赤ちゃんの運搬)の歴史や世界の現状等を発表していました。彼女の発表の中で印象に残ったのは「人間は本来、誰しもbabywearingしていた。しかし、効率のみを追いかける現代では、babywearingする社会ではなくなっている。一方で西洋とアジアの上流から中流階級層においては確実にbabywearingに戻ってきている。」という内容です。人間は本来、誰もがBabywearerだったのだ、ということを改めて学者の口から聞けたのは嬉しかったです。

会議事務局リーダーのアリス。毎日子どもを連れていたことと、wearingを変えていたのが印象的だった


フロント・ラップ・クロス・キャリー_05

5.ジャバラになった布を赤ちゃんの後頭部まで引き上げます。

フロント・ラップ・クロス・キャリー_06

6.ボトムレールを使用者と赤ちゃんの間に入れ込んでシートを作ります。


イカット織りの布を装着し、使い方を説明するバーバラ

研究者ではありませんが、20年以上にわたってbabywearingを広めているのがREBOZO WAY PROJECTのバーバラです。彼女はメキシコのbabywearingのすばらしさに惚れ込み、イカット(かすり織り)という手法を用いた染織物で babywearingする工夫を広めています。所有しているコレクションも多く、彼女の周りには生きた教材がたくさんあります。彼女の主張に「babywearingは民族固有の衣装と関係している」というものがありますが、確かに民族ごとに衣服が異なっていた時代のbabywearingはそれぞれに個性があります。
カンファレンスでは「babywearing大好き!」という方が数人でセッションを持つこともあります。アジアのアンティークおんぶひもを部屋中に広げて、それぞれの特徴と使い方を片っ端から説明していく発表者に対し、参加者から「その使い方はこうなんじゃない?」と意見が入る生き生きとしたセッションにも出席しました。私? 数少ないアジア人参加者として「違うな〜」と思ったところは、ちゃんとつっこみ入れましたよ。babywearingのアンティークな製品というと、だいたいがアジアのもので、ヨーロッパや米国の製品や道具はあまり登場しません。きっとアジアではbabywearingに対する考え方が早くから根付いていたのでしょう。


だいたん! 今後の展開予想!?

babywearingの研究はまだ始まったばかりで研究者の人数もほんとうに数えるほどしかいません。babywearingというのは「育児の中であまりに普通の行為」だったので、これまで研究テーマとして取り上げられなかったのでしょう。ですから、今後研究をすれば、それこそ山のようにテーマが見つかると思います。ジェニーの研究のように母親に与える影響があるなら、逆に子どもに与える身体・精神の両面への影響を調べることも大切だと考えます。文化人類学的な子育て道具としての過去・現在の研究や、人間工学、育児工学からみたアプローチもあります。
一方でbabywearingが保育や医療の中でどう活かされるのか、というような研究は、私自身は聞いたことがありません。抱っこやおんぶをする現代の様々な生活シーンにbabywearingをどう活かすかという研究もあればいいなと思います。

babywearingの研究者も業者もその多くは英語を話す。資料もおのずと英語ばかりに


REBOZO WAYのバーバラと。彼女は20年以上にもわたりbabywearingを広めている

ただ残念なのが、私の前に立ちはだかる言葉の壁です。英語圏でなら、多少散見される研究があるものの、それらは日本語に訳されておらず、ドイツ語も目にしますが、もちろん日本語訳などはなく…。私個人としては、人生の中で今ほど自分の語学力のなさをふがいなく思ったことはありません。高校生の頃は「テストの点数が悪いくらい、なに言っとるの〜!(当時は名古屋弁)」と息巻いておりましたが…そんなことじゃいけなかったのですね。くすん。

欧米やアジアの一部でbabywearingが見直されている現在、それに関する研究も進んでいくことでしょう。ぜひとも世界のみんなで情報を共有して、人類のために役立つ環境を整えていけたらいいなと思います。そのために北極しろくま堂としてできることをお手伝いしていこうと考えています。

(おわり)