北極しろくま堂メールマガジン

vol.141 2013.8.14 対談「肌と心がふれあう子育て」第二部


対談企画「肌と心がふれあう子育て」第二部

身体心理学者 山口 創氏  ×  北極しろくま堂店主 園田正世


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触れ合うことは親子の関係性に影響を与えるということが分かった第一部に引き続き、第二部では今話題になっているホルモン「オキシトシン」の作用など、肌と肌が触れ合うことが心に与える影響をより深く掘り下げた話を伺いました。
※オキシトシン:脳下垂体後葉から分泌され、分娩後の子宮収縮や乳汁分泌を促すホルモン。

対談企画「肌と心がふれあう子育て」第一部

オキシトシンの作用

園田
オキシトシンは最近メディアにも取り上げられたりして注目されていますが、スキンシップをすればするほどオキシトシンが沢山出るんじゃないかと思っている人は多いと思います。

山口
実は量が問題ではないんです。私は「ちょい抱き」というものを薦めているのですが、触れて10分くらいしてくるとオキシトシンが出てきます。そのまま触れ続けていると、15分~20分でピークに達します。ピークに達した後は触れない状態でもしばらくはオキシトシン量が高い状態を維持するんです。

園田
それはどのくらいの時間ですか。

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山口
大体1時間くらいですね。だから赤ちゃんとずっとべったりしている必要はなくて、1時間に一回でもいいので、きちんと関わってあげるのが大切なんです。10分~15分は赤ちゃんの目を見て、だっこをしながら他の事を考えずに関わってあげると、その後赤ちゃんは満足してまた1人遊びを始めたりします。そして、1時間くらい経ったら、ちょい抱きをして、いっぱい関わってあげて・・というように触れたり離れたりということを繰り返していると、オキシトシンがずっと高い状態を保てるんです。


園田
ああ、その感覚はなんとなく分かります。昨年アメリカのベビーウェアリングカンファレンスに参加しました。参加者の大半がだっこが好きな赤ちゃん連れのお母さんなのですが、会場で泣き声を聞く事がほとんどありませんでした。お母さんは話し合いに参加しているのですが、その横で赤ちゃんは適当に遊んでいます。それでしばらくするとお母さんのところに来て、だっこや授乳をするとまた離れて遊びだすという光景が普通でした。一緒に参加してもらった通訳さんは「赤ちゃんがこんなに沢山いるのに、誰も泣いてないのが不思議」と驚いていました。

山口
そうでしょうね。

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園田
私から見ると、ベビーウェアリングして育てている人の赤ちゃんは泣かないのが普通なんです。先生がおっしゃったように、科学的に見ればきっとオキシトシンの作用が1時間くらい続いて、その作用が切れてきて、少し飽きたり寂しくなったときにお母さんのところにきて、また離れていくということですね。

山口
それでまた不安になると戻ってくる。栄養補給ではないですが、そういう安全基地のような役割をお母さんが担っているということです。


園田
それはお父さんでもいいのでしょうか。

山口
それは一概には言えないんです。やっぱりお母さんが愛着の対象である場合が多いので、お父さんがそのまま代わることは難しいでしょう。もちろん時期にもよります。生後半年以内ならまだ誰かよくわからないのでお父さんでも大丈夫だったりもします。

園田
人見知りが始まる前ですね。

山口
ええ。その後、生後6ヶ月頃から2歳くらいまではお父さんでは難しいのではないかと思います。

園田
お父さんでも触ればオキシトシンが出ますよね。

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山口
はい。ただお父さんはだっこしたり優しく触れてもあまり出ないのです。お父さんが触れてオキシトシンが出るのはちょっと刺激的な遊びをした時なんです。子どもをたかいたかいするとか、こちょこちょするとか。そういう時にお父さんにもオキシトシンが出るんです。

園田
なるほど。そういう触れ合い方でもオキシトシンが生成されるんですね。ちなみに私は赤ちゃんに触れていたりすると、皮膚と皮膚が接触して溶け出すような感覚になることがあります。皮膚の境はあるけれど、内臓が一緒になってくるような気持ちになるのです。
 


融合と隔たり

山口
精神分析でいうところの、お母さんと赤ちゃんの外膜というものですね。フランスの精神分析医D・アンジューが、新生児にとっての自分という感覚は、母親と一体化し1枚の共通した皮膚をまとっているような状態であると言っています。これは母親が子どもと一体化した感覚を感じると同時に、子ども自身も皮膚を通じて母親を摂り込んで、相互的な包含(※2)の形をとると言います。このような肌を通した包含関係こそが愛着の本質だということです。

園田
でも、本当は一体化しているのではなく、そこには肌が間にあるんですよね。

山口
そうです。肌の接触には「融合」と「隔たり」という2つの感覚があります。赤ちゃんを抱いたり撫でたりしていると、溶け合うような感覚を覚えるけれど、肌の隔たり感がどうしても邪魔をします。

園田
赤ちゃんに触れていて、接地面積が多い場合にそういう感覚を味わうような気がします。

山口
触れる面積が広ければ広いほど一体感は出てくるでしょうね。赤ちゃんの柔らかさは液体のような感じだったりしますよね。皮膚という皮の中に水が入っているようなイメージで捉えると、お母さんに任せきっている赤ちゃんの体というのはすごく柔らかくて、まさに水袋を抱いているような感覚になるので、自分と赤ちゃんの境界線を感じられなくなってくるのかもしれないですね。ところがやはり、体をこわばらせている赤ちゃんの中身は水ではなく、固体なのです。だから固体を抱いているという感覚に近いと考えると、接地面はどうしても少なくなってしまって、一体感があまり感じられないのかもしれません。

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園田
スリングは皮膚と皮膚ではないですが、赤ちゃんが入る部分が形作られていないので、自然に赤ちゃんの体にフィットしています。スリングに入れると心地よくて赤ちゃんが寝てしまうというのは、接地面積も関係しているのかもしれません。

山口
そのような事も大学で研究されると面白いかもしれませんね。研究したものを商品づくりに役立てていかれるんでしょうか。


園田
いえ、おそらく商品は今あるものでもう完成していると思っています。抱くということはシンプルなので、これ以上何か付属するものはないと感じています。研究結果はこれまで作ってきた製品機能の裏付けになると思っています。最終的に抱く行為は布1枚あればできます。育児グッズと呼ばれるものは本当にあふれかえっていて、それがないと子育てができないと今のお母さん達は思ってしまっています。最終的には布1枚あればいいんだよということを伝えてあげたいんです。

山口
なるほど、シンプルイズベストですね。

園田
その分、身体感覚というようなものが大きく影響する商品なので、それをどう伝えていくかというところが課題なのですが。

山口
こうすれば絶対こうなる、というマニュアル化を何に対してもすればいいということではないんですよね。

園田
子育て自体がそうだと思います。太古から人がそうしてきたように、マニュアルがなくても本能で育てられるはずなのに、それを忘れてしまっている。だから北極しろくま堂の商品を使うことによって、赤ちゃんって子育てってこういうものなんだということに、気づいてもらえるきっかけになればいいなと思うのです。例えばスリングが手元にないという時でも、その辺にある布を見て、これはだっこに使えるんじゃないかって思ってくれたら、その人はおそらく子どもとも深く関わり合えているのではないかと思います。

山口
なるほど。そういうきっかけにもなるわけですね。今の時代そういうことはすごく重要なことですよね。

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※1 内省(ないせい):自分の考えや行動を深くかえりみること

※2 包含(ほうがん):中に含んでいる状態


山口創(やまぐちはじめ)氏プロフィール

1967年、静岡県生まれ。早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。専攻は、臨床心理学・身体心理学。現在は桜美林大学リベラルアーツ学群准教授。論文に「乳幼児期の身体接触が将来の攻撃性に及ぼす影響」「両親から受けた身体接触と心理的不適応の関連」などがある。

山口創氏著書

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「愛撫・人の心に触れる力」
NHK出版

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「皮膚という「脳」」
東京書籍


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「手の治癒力」
草思社

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「子供の「脳」は肌にある」
光文社


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「皮膚感覚の不思議」
講談社


 


 

次号予告
だっこひも、おんぶひものお手入れ

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残暑厳しい夏ですね。汗ばむ季節でも、北極しろくま堂のベビーウェアリンググッズはどれもご家庭でお洗濯できるのが魅力のひとつです。みなさんはご自宅ではどのようにお手入れされていますか? ベビーウェアリングコンシェルジュがお手入れのアイデアをお伝えします。 



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先日大きな反響があったのは、赤ちゃんが驚くほど落ち着いて寝てくれる「赤ちゃん用ソファの作り方」。新生児期、これを知っているか知らないかで育児の負担感が随分変わる知恵です。 この他にもだっこやおんぶの歴史や、店主園田のカンファレンスレポートに至るまで、子育て中の方に限らず楽しんでいただける内容になっています。
ぜひ一度のぞいてみてください。

SHIROKUMA mail editor: MK

Producer  Masayo Sonoda
Creative Director  Mayu Kyoi
Writer  Mayu Kyoi, Masahiko Hirano, Nobue Kawashima
Copy Writer  Mayu Kyoi, Masahiko Hirano
Photographer  Yasuko Mochizuki, Yoko Fujimoto, Keiko Kubota
Illustration  823design  Hatsumi Tonegawa
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