北極しろくま堂メールマガジン

vol.115 2012.07.11


~だっことおんぶをとりまく業界のプロたちと店主・園田による対談シリーズ~

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studio-L代表 山崎 亮 × 北極しろくま堂店主 園田正世

対談「人をつなぐコミュニティデザイン

~デザインで社会の問題を解決する~」第一部


山崎亮(やまざきりょう)さんは今、全国各地の自治体で地方再生の様々なプロジェクトを任されているコミュニティデザイナーです。人と人のつながりを生み出し、地方の抱える問題を次々と解決していくコミュニティデザインの力。行政に引っ張りだこの山崎さんの考え方は北極しろくま堂の姿勢にも通ずるところがありました。ベビーウェアリングを実直に追求する園田との対談、お楽しみください。

 

園田
この度は本当に本当にお忙しい中、お時間を作っていただきありがとうございます。全国を飛び回っておられるようですが、山崎さんのお仕事やコミュニティデザインについて、教えていただけますか。

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コミュニティデザインとは

山崎
コミュニティデザインとは、「人のつながり」をデザインすることです。離島から大都市に至るまで地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのつながりをつくり、まちとそこに住む人たちを元気にする仕事です。

園田
デザインといえば、モノのデザインがすぐ思い浮かびますが、山崎さんがされているのは、形のない人と人のつながりに対するデザインなんですよね。

山崎
例えばかたくなりがちな行政の報告書や、コミュニティデザインに関連する雑誌などをデザインすることもあるので、社内にはカメラマンやグラフィックデザイナーや編集の担当がいますが、メインはモノの形ではなく、人の集まりをデザインしてそこに新しいプロジェクトが生まれる仕組みを作っていくということをしています。

園田
デザインを通して何かの問題を解決していくというイメージでしょうか。

山崎
そうですね。デザインという言葉を日本語にすると「意匠(いしょう)」です。僕はこの「意匠」という言葉が好きなんです。デザインという言葉は明治の初期くらいに日本に入ってきたものなんでしょうが、うまく訳したなと思います。意を匠(たくみ)するというのは、人の意図をどんな風に作っていくかということですが、これってモノの形を作るということではないですよね。要するにモノを匠するのではなくて、気持ちの部分、意図しているものをどう作り上げていくかということですから、それは必ずしも二次元の紙の媒体でなくてもいいし、三次元の空間でなくてもいいわけです。キャリアデザインという言葉がありますが、これも何もモノを作っていないですよね。だからデザインという言葉が必ずしもモノを作らなければいけないという訳ではないということなら、コミュニティのデザインもあっていいと思っています。だから肩書きもコミュニティデザイナーなんです。


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園田
コミュニティデザインという言葉を知っておきながら、山崎さんがデザイナーだったと今初めて認識しました。

山崎
そうなんです。皆さん僕がデザイナーだということをしょっちゅう忘れます。よくしゃべるからでしょうね。外見もデザイナーっぽくないですし。

園田
とっても親しみやすいです。いわゆる世間一般の人が抱くデザイナーのイメージではないかもしれない。

山崎
だからプロジェクトに関わる住民の方々も僕らがデザイナーだということをすっかり忘れて、モノのデザインの案件を自分たちで勝手に作ってしまって、意図しないTシャツができてきたりするんです。(笑)僕らに相談してくれればいいのに。


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園田
ははははは。

デザインの生態系

山崎
デザイナーっぽくないというと、D&Departmentのナガオカケンメイ(※1)さんもそうかもしれません。彼はデザインの生態系というものがある、とおっしゃっています。ロングライフデザインといわれる商品も、そのモノのデザインが非常に優れていて長くみんなに使われているからではなく、このモノを作るために必要な材料が安定的に供給されるとか、それがちゃんと運ばれているとか、その商品を売る販売員の女性の笑顔がいいとか、そういうことが全て関連して、結果そのモノが多くの人に長く使われることになっている、だからモノの外見が単にいいというだけではないということをデザインの生態系と呼んでいるそうです。この考えには僕もすごく共感しています。


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園田
デザインの生態系ですか。確かに私もそれは痛感しています。私は主婦として起業して当初は個人事業主だったんですが、「これだけあなたの商品を待っている人が全国にいるのに、あなたの都合で、はいやめます、ということはもうできないよ」とある人に言われて、途中から有限会社にしたんです。ひとつの資材がなくなると商品は作れないですし、ネットショップとはいえお客様のご質問などに丁寧に答えるようなスタッフの姿勢も問われます。トータルでおんぶひもが売れることにつながっていると思います。また、北極しろくま堂の商品は使い慣れるまで少し時間がかかるものもあります。アフターフォローなど全てをひっくるめたものが北極しろくま堂のおんぶひもなんです。


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大きな変化が起こる中で

園田
山崎さんの著書「コミュニティデザイン」を読んでいて記憶に残ったのが「風景は、そこで生活する人たちの行為の積み重ねによってできあがる」という言葉です。北極しろくま堂のやっていることも似ているなと感じました。人類が生まれてから今までずっと絶えず行ってきた「だっこやおんぶ」という行動は、ものすごく長いスパンでの行為の積み重ねの中にずっとあったものです。けれども、一度戦後ぐらいで残念ながら途切れてしまったんです。日本人なら日本人なりの積み重ねがあっただろうし、海外でも同じだった、それらを全部合わせてもいいだろうし、うまく編集してもいいとは思うんですが、それが壊れてしまっているというのが、私たちが今置かれている状況なんだなあって、読んでいてそこに想いがいきました。今、私はそれを立て直したいと思っています。


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山崎
明治維新と戦後に今までの価値観が大きく変わるような変化が、かなり強引にコピー&ペーストという形で起こったのは確かでしょうね。まず明治維新があってそれまであった日本文化が一旦否定されるので、新しいものの方がいいものだということになります。しかしまた何年も何年も経つとやっぱり違うよねと思うようになって、敗戦を機に価値観も文化もまたばさっと変えて、そして戦後70年くらい経った今、だっこやおんぶのようにまたこれは、ずれていたねとなる。俯瞰して見てみるともしかしたら大きなコピー&ペーストによる変化ではない、ちょっとずつ変わっていくところの延長に僕らが行くべき道があったのかもしれないなと気づく。明治維新までの間、徳川が300年近くやってきたり、その前からずっと自然な形でイノベーションが起きていたような、実はあの延長でいくべきで、よくよく考えてみたら、その緩やかに斜めに進む道のほうが僕たちには合っているのかもしれないなとようやく気づいた、そんな時代に今僕らは生きているような気がします。最終的には良い方へ良い方へ行きたいんだけれど、ばーんと階段をとばして進んだのはもしかしたらあまり良くなかったのかもしれないと。

園田
そうですね。山崎さんは日本国内様々な場所に行かれてお仕事をされていますが、そんな風に何百年も何千年もゆるやかな流れの中で、ずっと一族でこの島に住んでいるというような、時間の使い方をしているご家族もきっといらっしゃいますよね。そんなDNAや空気感に気付く方はいらっしゃいますか。


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大切なのは気づきのプロセス

山崎
いますね。個人が1人で思い出すというより、集団でしゃべっていると出てくることがあります。ワークショップなどで話していると、やっぱりあれがいいよね、これがいいよねということが、実は江戸とか明治にやっていたことと同じじゃないっていうことに、どこかの段階で気づくことがこれまでに何度かありました。話を聞いているとその人自身がまだ生まれていない年代の島の暮らしのことを懐かしそうに話していたりするんです。

園田
そうなんですか。面白いですね。

山崎
例えば自分たちの集落の将来像を考えて話していくワークショップで、10年後や100年後村がこうなっていたらいいなというような夢のビジョンを考える時間をもちます。そこで、食べ物を食べる、食べたら出てくる、出てきたものをもう一回そのまま食べられたらいくらでもお腹いっぱいになるよね、という話が出てきて。 じゃあ、出てきたものを食べるのはさすがにちょっと無理だけど、その間に最新鋭の機械を通して、またほうれん草や大根に変わって出てきたら、また食べられる。というような話をしていたら、これって畑だよねということに誰かが気づいて。結局出したものを肥料とすれば、作物が育って、それをまた食べてと。そして、江戸時代はこれが普通だったんだよねという話になって。


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園田
当時は肥えがすごく高価なものとして取引されていたそうですね。

山崎
そうなんです。ふと見ると近代以降、産地でたくさん作って空輸したりとか、輸入して食べてきたという感覚とは全然ちがう話になって盛り上がって、それって江戸だと気づいたら、あれ、この感覚はなんだとなるんです。

園田
ふと気づくわけですね。その瞬間ってそこにいる人たちが同じ空気を共有するんでしょうね。

山崎
ええ。食べたものを出してそれを使ってまだ育てて、また食べるというサイクルは昔からあったものなんだということに気づいた、そうやって自分たちで気づくことが大切なんです。
江戸がこういったシステムで動いていましたから、皆さんもこうしてくださいとするのは無理なんです。自分たちで見つけたものだからこそやりたくなっちゃうんです。 そこで僕たちが、それってすごくいいことじゃないですか、やってみましょうよって言えば、みんな一所懸命排泄物を入れるのってどうするんだとか、色々考えるんです。それで瓦や貝を通して微生物が分解して、徐々に綺麗になった水が田んぼに流れて、そこに栄養分がたまってということが分かると、みんなで瓦を割ったり、貝をくだいたりするわけです。
すごいいいことを思いついた、やりたいって気持ちをまず起こしてもらって、それでしたらこんなやり方があるんじゃないですか、と僕たちが言うと、じゃあやってみようということになる、このプロセスが大切なんです。

園田
自分たちの思いついたことを、「それすごくいいですね」と第三者に言われると、とてもやる気になりますよね。

山崎
僕たちは「いいですね、もっとこうしたらどうですか」ということを言っているだけなんです。

園田
その気付きのプロセスを大切にして、促していくというやり方はどのように生まれたんでしょうか。

山崎
試行錯誤して住民の人たちが動いてくれたのがそのやり方だったわけです。こちらが色々専門家ぶっても動かないし、方法を全部教えてひとまずは動いたけれど、数ヶ月後に行ってみたら全部やめていたという経験が何度もありました。そこで「いいですね。もっとこうしたら」ということをやってみたら、住民の人たちが動いたので、うちの事務所のメソッドとなっています。


対談「人をつなぐコミュニティデザイン ~デザインで社会の問題を解決する~」 第二部


※1 ナガオカケンメイ:
D&DEPARTMENT PROJECT代表。1965年北海道生まれ。日本デザインセンター原デザイン研究所を経て 1997年ドローイングアンドマニュアルを設立。2000年デザイナーが考える消費の場を追求すべく東京世田谷にデザインとリサイクルを融合した新事業「D&DEPARTMENT PROJECT」を開始。2002年大阪南堀江に2号店を展開すると同時に、同年より日本のものづくりの原点商品、企業だけが集まる場所としてのブランド「60VISION」(ロクマルヴィジョン)を開始。カリモク、ノリタケなど10社とプロジェクトを進行中。2005年1月よりロングライフデザインをテーマにした隔月刊誌『d long life design』を創刊。
http://www.d-department.jp


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山崎亮さんプロフィール

studio-L代表。京都造形芸術大学教授。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザイン、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。著書に『コミュニティデザイン』(学芸出版社)、共著に『まちの幸福論』(NHK出版)、『コミュニティデザインの仕事』(株式会社ブックエンド)、『幸せに向かうデザイン』(日経BP社)、編著に『つくること、つくらないこと』(学芸出版社)などがある。

山崎亮さん著書


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「コミュニティデザイン
人がつながるしくみをつくる」
学芸出版社

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「コミュニティデザインの仕事」
株式会社ブックエンド



次号予告
人をつなぐコミュニティデザイン ~デザインで社会の問題を解決する~ 第二部

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コミュニティをデザインしながら活性化していく山崎さんのお仕事。人と人のつながりが改めて見直されることとなった震災からまもなく1年半、その復興にコミュニティデザインの力が必要とされています。第二部もお楽しみに。


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Babywearing Conference 2012レポート

アメリカ合衆国、首都ワシントンD.C.にて開催された今年のベビーウェアリングカンファレンス。店主園田は2つのクラスを担当し、日本やアジアのベビーウェアリングについて発表をしました。カンファレンスの様子を園田がレポートします。




【編集後記】

一日に飛行機に2度乗ることもあるというくらい、西へ東へ飛び回っていらっしゃる山崎さん。その貴重なお時間を少し分けていただくことができ、実現した対談。いざ話し出すと話題は次々飛び出し、話が尽きない対話が実現しました。このSHIROKUMA mailの対談シリーズは様々な分野の方々にご協力いただいています。だっこやおんぶとはつながりがなさそうな方との対談も盛り上がるのは、お互い「志」を強く持っているからこそ。

SHIROKUMA mail editor: MK

EDITORS
Producer  Masayo Sonoda
Creative Director  Mayu Kyoi
Writer  Mayu Kyoi, Masahiko Hirano
Copy Writer  Mayu Kyoi, Masahiko Hirano
Photographer  Yasuko Mochizuki, Yoko Fujimoto, Keiko Kubota
Illustration  823design  Hatsumi Tonegawa
Web Designer  Chie Miwa