抱きぐせって良くないって聞いたけど? 〜松田道雄先生の本から考える〜


赤ちゃん抱っこ

赤ちゃんが泣くたびに抱っこしていたら『抱き癖』がついちゃうよ!ーと言われたことはありませんか?
抱きぐせって<つくと悪い>癖なんでしょうか。赤ちゃんにとっての抱きぐせってなんでしょう。

1.『抱きぐせ』の背景

1-1.抱きぐせが有名になったのは、1960年代後半から

抱きぐせという言葉は子育て経験のある方なら一度は耳にしたことがあるだろうと思います。
日本には戦前から存在していた言葉なのですが、それほど知られているわけではなかったようです。そもそも育児書を買って読む層が少なかったようですし、子育ての方法は近所のお姉さん(自分より少し年長の女性)や実母、姑など周りから見聞きしていたのでしょう。
1967年に暮らしの手帖社から『スポック博士の育児書』という本が出版され、アメリカ式の育児が急激に注目を集めました。スポック博士はその本の中で赤ちゃんも少しずつ自立することが大切だと説き、泣いたら抱き上げることばかりすると「抱きぐせ」がつくから気を付けるようにと主張していました。
しかし原著を読むと、『抱きぐせ』に該当する単語はありません。日本語のうまい訳が日本人の感性にぴったりでかつ口にしやすい言葉だったのではないでしょうか。

1-2.抱きぐせ論争

いずれにしても『抱きぐせ』という言葉は日本で有名になりました。1977年24刷、松田道雄先生の『育児の百科』(岩波書店 / 初版1967年)にも頻繁に『抱きぐせ』という項目が登場します。松田先生は一貫して抱っこを勧めています。1ヶ月から2ヶ月までの章では『抱いたから、かならず抱きぐせがつくものではない。』と記しています。
一方、内藤寿三郎先生という小児科医も同時代にたくさんの育児書を書いた方として知られていますが、内藤先生は一貫して抱きぐせがつくことを批判しています。『赤ちゃんの甘えで泣いているならば、断固無視して放っておく。そうすれば抱きぐせは治る。』(出産と育児の百科 / 内藤寿三郎監修 / 小学館 / 1972)つまり、内藤先生は抱きぐせは治すべきものとして捉えていたようです。

育児の百科

1-3.そもそも赤ちゃんにとって『抱かれる』意味は?

今、この記事を読んでいる方で抱かれたことがない人はいません。人は抱かれたから生きています。人は人に触れられないと生き延びられないようなのです。
70年くらい前のことですが、アメリカの病院の小児病棟で赤ちゃんを治療するためにカプセルのようなベッドをつくってなるべく触らないように寝かせたことがありました。するとどの子もみんな体重が減少してしまい病気の治りも悪くなったので、元の看護の仕方に戻したら回復してきたということがありました。
赤ちゃんを抱いたりおぶったりすることは、授乳とセットで人類の誕生以降ずっと続いてきた行為ですし、どうやらそれが赤ちゃんの成長にとって必要なものらしいのです。
でも私たちは赤ちゃんのお世話だけに24時間を使うわけにはいきません。家事や稼業など動き回る必要があります。赤ちゃんを身につけて何時間も労働に従事するためにはできるだけ両手があき身体に負担がかからず、しかも赤ちゃんの成長にとっても良い状態になっていることが求められます。そのために各民族はそれぞれの環境にあったやり方を発見し、探求しながら道具を作って利用し、後世に伝えてきました。

2.抱っこの効果と逆効果

2-1.抱っこの効果

赤ちゃんにとって抱っこされることはどんな効果があるでしょう。

  • 揺れる→感覚統合、重心移動の練習
  • 移動してもらえる→行きたいところに行ける
  • 触れられる→オキシトシンの分泌(なにしろ、気持ちよい)
  • 高いところから見渡す→新しい知識の吸収
  • 運動する→運動発達の促進

最後の「運動する」とはどういうことか疑問に思った方もいるでしょう。松田先生の本には『抱かれて、からだをしゃんとさせることが、この時期の赤ちゃんの運動の一種である。』(同p102)と書かれています。この時期というのは生後1ヶ月から2ヶ月までのことで、筋力がまだまだ弱い赤ちゃんにとって、抱かれることそのものが身体を鍛える一歩になっているというのです。

2-2.抱っこがもたらす逆効果

もしかしたら逆効果もあるのかもしれません。
抱きぐせはしばしば「甘え癖」と言い換えられることもあります(注)。既に赤ちゃんの体が発達してその行為(例えば歩く、食べることなど)ができるのに、それをしたくないために抱いてと泣いて主張する場合を甘えていると言います。
『スポック博士の育児書』には泣いている赤ちゃんをなだめるためにいつも抱く必要はなく、一緒に遊んであげるなどの他のあやし方も取り入れたり、ママはこの時間は忙しいからあとで遊ぼうと説得してはどうかと書かれています。
また一定の抱き方、しかもそれが赤ちゃんにとって心地良くない状態である抱き方をされると、赤ちゃんの体が不自然に緊張したりこったりすることがあります。赤ちゃんの背中がこっていると聞くと信じられないかもしれませんが、怖いと感じるような抱き方をされている子や、ねじりが強い抱き姿勢を強いられている子のからだはこっていることが多いです。
これも抱っこがもたらす逆効果かもしれません。

2-3.抱かない時間も大切

このように赤ちゃんにとって効果がたくさんある抱っこですが、いつもいつも抱っこしていることが良いことでもなさそうです。赤ちゃんは多様な環境に包まれて経験することでたくさんのシナプスを生かしています。(正確に言うと、たくさんできてしまったシナプスから必要なものを残して、使わないと判断したものをなくしているのですがーシナプスの刈り込み)
松田先生が勧めているように、生後1ヶ月からでも抱っこして外気浴させることによって季節の風や匂い、太陽の光、お母さんの歩き方を感じながら胎内で得られなかった情報を吸収することでしょう。同じように何種類もの抱かれ方や床やベッドの違い、布団や着せられた服の感触の違いを感じることも大切なのです。
赤ちゃんは抱っこしないと移動できませんから、日々変わる未知の環境に連れ出してあげることも大切ですが、いつもいつも抱いている必要はないのです。

まとめ

いかがでしたか。
『育児の百科』は長い期間ロングセラーを続けた、日本を代表する育児書です。松田先生の言葉には子どもへの愛が感じられて、育児書なのですがどんどん読み進めたくなる内容です。挿絵がいわさきちひろさんだということも、今回改めて認識しました。現在発行されている版も同じ挿絵が使われているでしょうか。
アメリカには「そんなに抱っこばかりしていると、20歳になっても抱っこしてあげなきゃいけないよ」というような言い回しがあるそうですが、松田先生や佐々木正美先生の本を読むとそれはどうも逆のようです。抱かれて愛された経験がないと、思春期以降に苦しむことが多いと。
たくさん抱っこして満足した子は、安心して親の元を離れていく。子どもはそうあってほしいと筆者も願っています。

注:特集 しつけを科学する 7「抱き癖・甘え癖」九州大谷短期大学幼児教育学 前原陽一郎 30(174)チャイルドヘルス VOI.16 No.3


雑誌やテレビでも話題!これまで数十万人のママが愛用!ベビースリング・抱っこひもの専門店