「おんぶの時間は知育の時間」を考える


おんぶの時間は知育の時間

最近、おんぶは知育に良いという言説を聞いたことはありませんか。
この記事では、

  • おんぶは知育に良いのか
  • どうおんぶしたらより良い育ちに繋がるか
  • 赤ちゃんの脳を発達させるとはどういうことか

についてご紹介していきます。

1.おんぶは知育に良いのでしょうか。

「知育」とは『知的能力を育て、知識を習得させるための教育』(ブリタニカ国際大百科事典)です。『推理力、記憶力、判断力などの知的能力の鍛錬に重きをおく形式的陶冶(とうや:人の性質や能力を円満に育て上げること)の考え方と、教材の実質的内容によって精神を豊かにし、生活に役立たせることに重きをおく実質的陶冶の考え方がある』そうです。
赤ちゃんにとっての知育はとりあえず実質的陶冶のほうに相当すると思われます。

1-1.おんぶは赤ちゃんの理解を促す

おんぶして生活することは、赤ちゃんにさまざまな生活場面を見せることになります。赤ちゃんひとりだけの環境では身の回りの出来事しか体験できませんが、おんぶされることによって高い位置から生活の場全体を見渡すことが可能になり、それらの出来事への対処方を安全なところから見学できるのです。
たとえば、ママが赤ちゃんをおぶって料理をしているとしましょう。
赤ちゃんは水があふれることやお鍋の水が沸くと湯気が出て踊ること、熱したフライパンに具材を入れれば盛大に音がでることなどを日常的に観察できるのです。これは小学生になって理科や家庭科の時間に習うこととはだいぶ違います。おんぶで生活を見せることは、理屈ではなくセンスを身につけることになるのです。

出典:子育て文化研究所 ※音がでます。

1-2.コミュニケーションが充実する

日本式の高い位置でのおんぶはママと赤ちゃんがほっぺたをくっつけられるくらいになることがあります。そこまで高い位置がキープできなくても、少なくとも小さな声でささやいたら聞こえる程度の位置関係にあります。赤ちゃんが何かに気付いて声を出したときに、あるいはママが目の前にあるものを教えたいときにも、ほんの少しのアテンションで交流が始まります。
同じ目線でものを見ることによって情報を共有し、生活の流れの中で知識を身につけていくことができるのです。

昔から赤ちゃんが眠そうになったらおんぶしていたように、赤ちゃんの状態を見てそれに応じて揺らしてあげるという手段にも使われてきたおんぶ。おんぶをすることで物事を教えるだけでなく、状況に応じて適当な関わりをもつことも可能になります。

2.良い育ちにつながるおんぶのしかた

良い育ちの定義はありません。古代から哲学者が論じてきたように、「良い」とされる回答は非常に難しいのです。
私たちが子育てでやっていることは、ヒトとして生まれた人間の子を人間社会で生きていけるようにすることです。その中で求められることは様々ありますが、それは時代や文化によって評価が違います。
既にAIの伸展により人間の社会が変わろうとしている現代において何が「良い」かを定めるのは難しいことですが、人として生まれた以上は少なくとも人間らしく生きていくという目標はかわらないでしょう。

2-1.親がやっていることを見えるようにする

1-1でも書いたように、親がやっていることを見せることはその後の理解に大きな助けとなります。見たことがないものは真似られません。
アフリカの人々もおんぶをしますが、アフリカの人たちの体型は作業をするのに腰を二つ折りにしても苦にならない骨格をしています。腰にくくりつけられた赤ちゃんは背中に乗るような状態になり、腰を曲げて作業するママの背中から周囲を見渡すことができます。(しかし背中におぶわれている時間の70%は寝ているという研究報告もあります)

アフリカの人たちのおんぶ

2-2.動きと加速度を一致させる

おんぶされている赤ちゃんはママが瞬間的に動くときに、ぴったりくっついていれば同じように体が動かされます。しかしぶら下げられた状態の赤ちゃんは中高校生のリュックと同じように、動いた方向と反対側にまず反動し、その後1テンポ遅れて動かされます。ちょっと違いますが、イメージとしては「欽ちゃん走り」のように行きたい方向(脚)と反対側に動かされる(腕)ことになるのです。
赤ちゃんは動きと体の使い方の感覚統合をしている最中ですから、あまりノイズをいれたくないものです。ですから、ママと赤ちゃんの身体は、掌を合わせたときのようにぴったりとくっついていると良いでしょう。

3.赤ちゃんの知性の作られ方

知性はどこに生まれるのかはまだよくわかっていません。でも「脳」だけではないらしい、ということはだんだん明らかになってきました。

3-1.知性はどうやって発生するのかは謎

昔のSF映画に出てきそうなイメージですが、もしも「脳」が生体として単体で生きているとしたら果たしてそれは「賢い」でしょうか。身体がないと表現する手段を持たないので「賢い」かどうかはわからないですね。それ以前に、どうやって脳に情報をインプットすればいいのかわかりません。

たくさんの脳科学者がヒトの考えがどう浮かんで、脳の中でどうやって処理されているのかを研究しています。ひとつひとつの神経細胞や部位の動きがわかっても、脳全体の様相は解明できていないのが今の科学です。
知性がどうやって生まれて発展していくのかは、今は特にAIの分野で研究が盛んです。人工知能にどうやって学ばせたら効率が良いのかを考えています。例えば、参考記事はこちら

3-2.動きと経験がないところに知性はない

「知る」ためにはどうやら動き回って情報を得ることが必須のようです。東京大学の國吉・新山研究室では赤ちゃんの胎児モデルを作って、胎児の触覚を操作して実験しました。ヒトの触覚は身体の前面、特に顔や掌に集中していることが知られていますが、胎児の頃からそれらの触覚は出生後と同じように分布しています。実験では胎児モデルでその触覚分布を操作した結果、うまく育たないそうなのです。詳細はこちらをご覧ください。

ベンフィールドの地図、体勢感覚 出典:wikipedia

ベンフィールドの地図、体勢感覚
出典:wikipedia

同様のことは脳科学者も主張していて、経験の積み重ねがいわゆる「知恵」になっていくことは固いことのようです。『野生への旅ーいのちの連続性を求めて』(新曜社 / 1984)ではアマゾンの奥地に暮らす原住民の子ども達が、周囲の年長の子どもや親のやっていることを見たり、真似たりすることで危険を学んでいくことが紹介されています。決定的なダメージがない程度にやってみる、失敗してみることが知識の習得や生きる知恵には必要なようです。
おんぶされた赤ちゃんが周囲を見渡す、親のすることを見る、それを元に真似てやってみることは次のステップに重要な経験をもたらしていると言えるのではないでしょうか。

赤ちゃんが周囲のものを舐めたり触って振り回し叩いてみる、その結果壊すこともありますが、その行為によってモノの損失以上の価値を身につけている可能性は充分あります。またいつもいつも親に抱かれたりおぶわれたりするのではなく、自らが様々な環境に向き合うことで新しい経験を積み上げていきます。ですから抱っこやおんぶで寝てしまった赤ちゃんを「起きてしまうから」という理由でいつまでも降ろさないのではなく、適宜降ろして新しい環境に身を任せることも同じように大切なのです。

まとめ

おんぶの仕方によって赤ちゃんにとっての知育時間になりそうだ、ということがわかりました。
あくまでも

  • ママと同じような動きが体感でき(動きの追体験)
  • ママの動作を含めた周囲を見渡すことができる(観察と理解)

ことが大切な要素で、ただ背中にいさえすればよいわけではなさそうです。
近世に日本を訪れた外国人たちは、日本の子ども達がとても賢いことに感銘を受けていました。その要素のひとつがおんぶによる教育だったのかもしれませんね。

高い位置でぴったりとおんぶできるおんぶひも
昔ながらのおんぶひも
へこおび

参考資料

  • 単純な脳、複雑な「私」 (ブルーバックス) 新書 – 2013/9/5 池谷裕二
  • 脳には妙なクセがある (扶桑社新書) 新書 – 2013/11/30 池谷裕二
  • 脳はなにかと言い訳する―人は幸せになるようにできていた!? (新潮文庫) – 2010/5/28 池谷裕二
  • まねが育むヒトの心 (岩波ジュニア新書)2012/11/21 明和 政子
  • つながる脳科学 「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線 (ブルーバックス) 新書 – 2016/11/16 理化学研究所
  • 知能の謎 認知発達ロボティクスの挑戦 (ブルーバックス) 新書 – 2004/12/17 けいはんな社会的知能発生学研究会
  • 野生への旅―いのちの連続性を求めて (1984年)1984/12 ジーン・リードロフ
  • 逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)2005/9 渡辺 京二

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