おんぶとおんぶひもの関係


International Babywearing Conference 2016 in Atlanta においてOnbuについての発表を行いました。そこで発表した内容と、その後にいただいたご質問をあわせて、少し違う角度からおんぶとおんぶひもについてご紹介します。

1.「おんぶ」は概念

会場でも以前からの問い合わせでもよく聞かれたのは「けっきょくおんぶって(おんぶひも)ってどういうことか?」ということでした。普通の日本の皆さんならおんぶは背中に赤ちゃん(時には大人かもしれませんが)を背負うことと回答するでしょう。
日本ではおんぶを育児するときの普遍的な行為として捉えてました。ぐずればおんぶ、眠そうならおんぶ、買い物に行く時におんぶ。遊園地でおんぶ。ここに共通する点はありそうですか?
おんぶってなんでしょうか?

カンファレンスで使用したスライドは以下よりダウンロードできます。
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1-1.「保育」と「運搬」同時に行うもの

江戸時代に日本にやってきたポルトガル人の宣教師フロイスは日本での子育ての様子を詳細に報告していますが、そのなかで『日本ではほとんどいつも、ごく幼い少女が嬰児をおんぶしている』と書いています。少女は赤ちゃんをどこかに連れて行こうとしているのではなく、世話を頼まれているのです。その方法としておんぶをしています。また児童文化研究家の上笙一郎は『「おんぶ」は保育と運搬を同時に行える、生活において効率的な方法であった』(1991)と書いています。
1975年のベビーエイジ(婦人生活社)では胸の前で抱っこしている姿を「前おんぶ」と紹介しています。

前おんぶ

上氏の説明を用いれば、そのお母さんは「胸の前で赤ちゃんを抱いているけれども、私は今赤ちゃんをお世話しているのよ」ということでしょうか。お世話というと大げさですが、「おんぶ」という言葉のなかには、赤ちゃんが自分とともにいることを忘れていないという意味合いが含まれているように思います。

他文化で保育と運搬を兼ねている方法はいくらでもあると思いますが、日本のおんぶは密着している・母子が同じ景色を見るということも特徴であるように思います。また、近世まではキモノのなかに赤ちゃんを入れてskin to skinで過ごしていた記録も多く残っています。

肌合わせでおぶう

yanomano族の抱っこ

イヌイットも同じようにコートのなかの肌に近いところでおんぶします。

イヌイットのおんぶ

筆者としては肌に触れて密着することによる母子間の情報や感情の伝達を期待したいのですが、これはベビーマッサージやクラニオセイクラルセラピーにヒントがありそうですね。

1-2.できるだけ泣かせないことを良しとしてきた日本の育児

日本には7歳頃まで多くの成長を祝う行事が行われてきたことからもわかるように、非常に大切に育てられてきました。これは贅沢をするという趣旨のものではなく、慈しむとかかわいがるということのようです。七歳までは神の子として丁寧に扱う風習に関係しているようです。逆に言えばその頃までは死亡率も高いので神様から預かっていることにして、不意の不幸が起こっても気持ちを対処するためなのかもしれません。
前述のフロイスだけでなく、江戸時代から明治時代に日本を訪れた外国人が驚いているのは”泣いている赤ちゃんがいない”という点です。まさかほんとうにいなかったのではないと思いますが、往来ではほとんど見かけないということのようです。また日本の子ども達が非常に賢く、大人のような常識をわきまえた行動ができると大絶賛しています。
いずれにしても大切に育てられ時期がくると分別のついた行動ができる子が多かったことは、当時の紀行文を読んでもよくわかります。

おんぶして育てられた乳児は、子守のお姉さんやお兄さんの遊びを見てルールを覚え、道理を知ります。大人におぶわれれば大人の世界や仕事の仕方を垣間見ることができます。それは赤ちゃんを飽きさせなかったでしょうし、少しぐずれば揺すってもらえたり唄を歌ってもらえたり慰めを受けることができました。眠りたければ寝られるし、おなかが空けばすぐにおっぱいをもらえます。
そういう状況であったため、”泣いている子がいない”というように外国人の目には写ったのかもしれませんね。

1-3.おんぶのメリット・デメリット

日本のかつてのおんぶのメリットとデメリットをあげてみましょう。
ここでいう『日本のおんぶ』というのは肩の上から赤ちゃんの目がのぞいて、背中の高い位置にキープされている状態を指します。

まずはデメリットから。
赤ちゃんの体重がかかるので、重い
この1点につきます。
川田順造先生の身体技法の研究でも論じられていますが、民族によって体の使い方や各部位の可動範囲も違います。床に座り農業や手工業を中心とした仕事をしてきた日本人は腰でバランスをとる運動が上手なようです。赤ちゃんをおんぶするときには肩を中心とした背中上部でおぶうのですが、実際には腰で支えつつ、膝を曲げて歩いています。
しかし現代の日本人は常にそのような姿勢をしているわけではないので、昔のおんぶの姿勢には慣れていないママも多いようです。家事をするにも(特に炊事)なるべく腰をかがめないでできるような設備が整っています。(昔の台所と今の台所の設備や高さを考えてみてください)
今の私たちがいういわゆるきれいな立ち姿勢だと、赤ちゃんを高い位置で長時間おぶい続けるのはコツが必要になります。そのコツがなかなかお伝えしづらいところです。

ではそのデメリットを凌駕するメリットとは・・・!

⑴ 同じ景色を見られる・時間と生活の共有

二人が同じものをみることを共同注意(joint attention)などと言います。親が見ているものを理解し、それの対処方やそれが何であるかを理解しあうということです。ヒトが人間らしく育つ第一歩として人間らしいふるまいや社会の成り立ちなどを見て知っておくということはとっても大事なことです。
それが簡単にできるのが高い位置の日本のおんぶです。

⑵ 場を共有する

背中にいる赤ちゃんがいつもお母さんと同じものを見ているとは限りません。寝ていることもあるし、別の方向を見ていることもよくあります。でもその場を共有していることで、最大公約数的に同じ雰囲気を味わい、同程度の体験をしていると言えます。
ママがいつも知り合いに会うときには「こんにちは〜!」とちょっと元気そうに挨拶するとか。
ため息をつきながら夕ご飯を作っているとか。
鼻唄歌いながら掃除機かけてるとか。
ママ友と楽しい話しをした後に足取りが軽いとか。
生活には様々な場面と感情がありますが、それをがっつりとは言わなくても共有することで良くも悪くもあなた(母)らしさが伝わります。
反対に同じ場所にいながら、目があわないことで別の空間を作り出すこともできます。子育てに疲れてつらい時にも、背中にいる子には涙を見せずに泣くことだってできます。

⑶ 密着性による体から受ける情報の多さ

おんぶの話しをすると、ときどき中年世代の方から「あなたの話しを聞いて、自分がおぶわれていた時のことを思い出した」等と言われることがあります。それはお母さんのうなじの匂いだったり、肌を通して聞く声だったり。自分はかわいがられていたという記憶が、匂いやくぐもった声とともに思い出されるようです。とても幸せな記憶だと思います。
そのような思い出だけではなく、人の体は全体が繋がっていますので、赤ちゃんはママがやっている体の使い方を同じように感じることができます。

2.「ひも」と道具

2-1.ひもには様々な種類がある

私たち日本人は「ひも」というと細くて長いものをイメージします。「帯」はひもより太いイメージを持つでしょう。ひもはロープでもない、平らなものですが、それほど太くなければロープ状に編んだものもひもと称します(例:電灯のひも)。帯は平らなもので決して丸くはありません。
中国のMei Tai(背児帯)は帯と書かれていますが、肩ひもに平たい布が使用されています。
日本でおんぶする道具の名称が「子守帯」と「おぶいひも」に分かれた理由はわかりませんが、おんぶに使われるひもは丸いロープのような形状ではないことは確かです。
そういう意味ではOnbuhimoに分厚い肩パッドが仕込まれてると、伝統的なものから離れているような印象を受けます。

2-2.おんぶ専用具がなかったゆえの自由さ

おんぶの専用具が販売されるようになったのは1930年代くらい以降のようですが、それまでは専用道具がないので自由におんぶしていたようです。2番目の写真では袈裟懸(けさが)けにおんぶをしています。キモノで押さえているので落ちないのでしょう。
昔の写真を見るとかなり細いひもを使っていますが、使い心地はいかほどに?

1880年の子守1880年の子守2

これらの写真に使われているのひもの元々の用途はわかりませんが、過去には兵児帯(絹)や三尺帯、角帯などがおんぶに使いやすいとされていました。
1970年代頃まではおんぶひもといえばコール天や起毛した生地(ベルベッド等)が使用されていましたが、これは滑らないようにするためだったそうです。

2-3.おんぶの姿勢

今では日本のママもすらっとスタイル良く、姿勢もすっとしてきれいです。でも近世以前まではそのような姿勢をすることは珍しかったようです。
かつての(今も…)日本人の歩き方がヨーロッパの方たちと違うのは、膝をサスペンションのようにする使い方(かかとを引きずる歩き方)だけではなく、上半身もほんの少し前傾姿勢でした。そこに赤ちゃんを乗せるので、無理なく過ごせたという一面があるのでしょう。

戦後の日本
しかし今は生活全体が西洋化しているので、スタイルもだいぶ変化しているように見えます。
もともと西洋では荷物を背中に背負うときには、日本と同じように高い位置に固定するのですが、いかにしてまっすぐ立てて歩けるかということに力点がおかれていたようです。膝のサスペンション機能には期待せず、肩にしっかり固定するという方式が採用されていました。筆者はBaby Wrapで赤ちゃんをしっかりくるんでいる様子をみると「西洋的だな」と感じます。日本のおんぶは赤ちゃんの腕をおぶう人の肩に載せるようにおぶっていました。赤ちゃんの体に少しあいまいな、ルーズな部分を残しながらおぶっていたのです。
そのきちっと締め付けないあたりを、母子(あるいは子守と子)であうんの呼吸で調整しながら過ごしていたように思えます。

現代の日本ではおんぶの概念があいまいになっています。前の世代はもともとやっていたおんぶのメリットを伝えてきませんでした。おんぶが当たり前すぎてかっこ悪いと思われていた、西洋がかっこいいとする時代が戦後から続き、育児用品の世界でも特に80年代半ばからそれが顕著になりました。今子育てしている80年代後半生まれの皆さんは、日本で初めて抱っこ中心で育てられた抱っこ1.0世代です。その皆さんがおんぶに迷うのは無理ありません。だって見たことがないのですから・・・。今はそれゆえの混乱が生じています。おんぶって赤ちゃんに良いみたいだけど、どうやったらいいのかわからない、と混乱するのは当然の状況があったのです。

まとめ

日本のおんぶは高い位置、やり方も道具もいろいろだった。ということを述べてきました。もともと私たちは背中にいるだけがおんぶではなく、姿勢も関係も一体となって「おんぶ」として捉えています。ですから、もし日本の年配者がBaby Wrapのダブルハンモックを見たら「これじゃあ赤ちゃんが前を見られないじゃない」と意見するだろうと思います。
おんぶは深いです。


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