バースコーディネーター
園田
テレビや雑誌で大葉さんのご活躍を拝見するようになり、バースコーディネーターという職業があることは知られるようになりましたが、その仕事がどんなものなのかはまだ広く知られていないように感じます。
大葉
わたしがバースコーディネーターという職業をつくったのが97年。後にバースコーディネーターの養成をはじめたのが2003年末です。2008年の現在、公認バースコーディネーターは私を含めて10名だけです。初期メンバーは丁寧に研修を行って養成しているため、まだ少ないのが現状ですが、研修生は何十名もいます。バースコーディネーターはおなかに命を宿している方々と接する場面も多いので、産婦人科医の先生や助産師の先生による専門的な講義を受けます。また他の研究会にも参加し、エビデンス(根拠)のあるサポート知識を身につけます。加えて、産後の女性たちのためのクラスで必要なファシリテーションスキルとしてベビーマッサージやボディケア、お産の振り返りなども合わせ2年半たっぷりかけて誕生学アドバイザー(*1) からバースコーディネーター研修基礎科、専科、研究科の4つの研修を修了した方だけがバースコーディネーターになることができます。面授の授業(*2) は月に2回のみ。その上この資格をとろうとしている方々は通常育児の真っ最中でとてもお忙しい。短期間に修得できる技能ではないのが実情です。
(バースセンス研究所HPより)
バースコーディネーターとは

バースコーディネーターは、新しい命に向き合う“妊娠前、妊娠中、産後”の時期に、女性やカップルの、心とカラダと暮らしをサポートし、QOL(人生の質)の向上に貢献できる技能を持つ人材です。
自然で優しい妊娠・出産・育児情報など「知識、意識、セルフケアスキル」を提供し、未来を楽しみにするための「コト、ヒト、モノ」をつなぎます。
女性やカップルで参加できる各種クラスを開講し、行政の両親学級や地域子育て支援団体と連携して妊産婦支援をしています。また、児童たちにも優しい自然な命の誕生を伝える「誕生学(商標登録済)プログラム」を保育園や学校にお届けするゲストティーチング活動もしています。バースコーデイネーターが所属している日本誕生学協会が活動母体となっています。
また、報道やメディア制作のお手伝いや、テレビの出産シーン監修もし、これから産む世代の出産イメージが優しいものになるように、その情報を入手できるように全国で活動しています。
http://www.birth-sense.com/birth/
園田
具体的にどのようなステップをふんでバースコーディネーターになるのですか?
大葉
「産まれてきた力、産みゆく力、つなげたい」がわたしたちのスローガンです。
そこで、まずは小学生の子どもたちに、命の力のすばらしさを伝えるのがバースコーディネーターになるためのファーストステップです。このお仕事を「誕生学アドバイザー」と呼んでいます。
子どもたちを相手に、「女性の産む力」と「子どもたち自身が産まれてきた力」のすばらしさを“魅力的”にプレゼンテーションするのです。話を聞いた子どもたちが“産まれてきたわたしはすごい! ” “自分もいつか子どもを産むのが楽しみ! ”といった感想が持てるように、命の誕生は嬉しくてわくわくすることだと考えてくれるように伝えるのです。
また、この年齢の子どもたちに合わせて伝えているのは、このすばらしい命の力が新しい命を産みつないでゆく能力が、時として病気で失われることも防ごうということです。性腺刺激ホルモンが分泌されるようになり、異性に対して性的な関心を持ち始める年頃ですから性感染症予防の知識も得てほしい。
園田
大葉さんは、ご著書「いのちはどこからきたの?」の中でも性のことをごまかさないでちゃんと伝える方法を説かれていますが、わたしは自分の子どもにこうしたことを伝えるのが母親として難しいなと感じます。
大葉
いのちはどこからきたの? 9歳までに伝える「誕生」のしくみ
大葉ナナコさん著
情報センター出版局刊
難しいと感じるお母さんは大勢いらっしゃいます。そのような場合でも、“あなたを産んで本当によかった”ということだけは必ずお母さんご自身がお子様に伝えて欲しいと思います。
性教育については、そのしくみを子どもに伝えることが得意な人が言えば良いのです。わたしなどは情報伝達のプロなので、生理や性感染症のことをどのように伝えると子どもは良くわかってくれるということが体得できています。おともだちのお母さんたちから“うちの子どもにも話して”とお声かけ下さり機会をいただくこともしばしば。地道に仮説と検証を繰り返して、ますますアイデアが湧いて、プログラム化しました。
園田
是非静岡でもお話していただきたいです。
娘に“お母さんはどうやって赤ちゃんができたの?結婚するとできるの?”なんて聞かれたときは、“セックスをするんだよ” “セックスって何?”という具合で会話をするのですが、彼女は全然わかっていない様子です。
大葉
子どもたちに伝えるときは「物語」を伝えてから、モノの説明をします。物語も、まずは自分自身が誕生してきたときの話が良いと思います。子どもたちは自分がどうやって生まれてきたのかという話が大好きなのです。
“○○ちゃんは、お母さんのおなかのなかで大きくなったころに、もうお母さんに会いにいくから、わたしを押し出してって、生まれ出てくる準備を自分でしたんだよ。しかも、頭の骨を自分で動かして頭を小さくして、あごを引いて丸くなって、お母さんの命の道を通ってきたの。○○ちゃんには、命の力がいっぱいあったんだよ。”という具合です。
バースコーディネーターや誕生学アドバイザーは、こうした命の物語を今から20年後に親になる人たちにも聞いてもらえる機会を増やしてゆきます。
またその一方で、今、親になったばかりの人たちには、赤ちゃんといっぱいふれあう愛情にあふれた育児を促して、子どもたちが9歳、10歳になって性腺刺激ホルモンが分泌しはじめたときには、ちゃんと命の話を聞けるように準備をしてゆくお手伝いをします。子どもが「自分は愛されている」といった感情を持っていないと、命の話は意識の中に入りにくいからです。高校生が“人を殺してみたかった”などと言ったりする事件があります。誕生してきた命がどれだけ大切なものなのかがわからないからです。これは親のせいだけではありません。テレビをつければ人間をばかにするような内容の発言や、人の体の欠点ばかりを言うような漫才を見せるバラエティ番組が目立ちます。メディアリテラシーを知らない子どもたちは、こうした命の尊さとは無縁の番組に洗脳されやすいです。
園田
今の子どもたちはいろんな類の情報をいとも簡単に手に入れることができます。わたしの一番上の子がいま小学5年生なのですが、漫画を読みはじめました。その内容は、どうしたら異性に好いてもらえるのかといった恋愛を中心に描かれたストーリーがほとんどです。好きな子にキスをしたとかしないとか、告白ができたとかできないとか。
現実的には恋愛以外にも熱中できることがたくさんあります。スポーツであったり、様々な趣味であったり、もちろん勉強が好きな子もいるでしょう。毎日の生活の中で考えたり悩んだりすることはもっと幅広いはずなのに、漫画の中の世界観の狭さにびっくりしてしまいました。
I message
大葉
“お母さんは、あなたがこういった本を読まずに本当に世の中でおこっていることを知ってもらえたらうれしいよ。” “読んでいくうちに、あなたが、そこに描かれている内容が世の中で一番大切って思っていったら、お母さんは悲しいよ。”そう伝えると、良い影響があると思います。これは「I message」といいます。I、つまり「わたし」であるお母さんはこう思うと伝える方法です。
大切なことを子どもに伝えるとき、わたしはいつもI message です。
あるとき、わたしの長男が学校に呼び出されました。10人くらいのグループで何か悪さをしたというのです。そのときわたしは真剣に怒ったのですがこの「I message」でしっかりこう伝えたのです。
“わたしは本当にあなたが産まれてきてくれてよかったって思っているよ。あなたはお母さんがいいって思ったから、おなかの中に入ってきて、産まれてきてくれたんでしょう?だからわたしはこの子のためなら! と思っているの。あなたが将来この大学に行きたいとか、こんな力をつけて世の中の人に喜ばれる仕事をしたいって考えたときに、その道を進むための「切符代」をつくるためにもわたしは一生懸命仕事をしているよ。”
“このバースコーディネーターの仕事は、あなたが産まれてきてくれたから生むことができた仕事なの。一人の人間を育てることはとても不安だったけれど、この不安はみんなも感じているって気がついて、不安解消の仕事があったら他のお母さんたちみんなを助けられる! と思って、それでこの仕事を始めたんだよ。全部、あなたのおかげなんだよ”
話し終えたら、お互いに涙顔。当時の息子は中学三年生でしたが、それからすごく落ち着いて、素直になりました。
子どもがひざからおりたら、次は会話の深さです。スキンシップももちろん大切ですが、会話の深さがより重要になってきます。“どんな仕事をして世の中の人があなたに対してありがとうって言ってくれたら嬉しい? わたしたちはみんな、誰かに喜んでもらいたいなと思って仕事をしているよ”って。そうすると、子どもは自分のどの力を使ってまわりの人に喜ばれようかということを考え、やがて進路が明確になってくるのだと思います。
園田
一番上のお嬢さんも進路が決まったそうですね。
大葉
そうです。この春から看護助産学校に進学します。長女の夢は、助産師さんになること。
彼女が小学2年生の時にわたしは4番目の子を妊娠したのですが、ある日彼女が“ママ、赤い、お米くらいの赤ちゃんがおなかのなかでぴかぴか光っているよ”って言ったのです。その時わたしはまだ生理が止まっているかどうかもわかっていませんでした。“あれっ?そういえば今月まだきてない?”って。彼女は5番目の子を妊娠したときもわかったって言っていました。その5番目の子の出産は、長女も立ち会いました。小学6年生でしたね。
よくみんなから“あなたの影響ね”って言われますが、わたしはそう思っていません。助産師になりたい魂をもった子が、我が家を選んだ気がします。“ここだと学生時代にお産に立ち会えそう”って(笑)。
*1 「生まれてきたことが嬉しくなると、未来が楽しくなる」をコンセプトに「命の力を伝える」ライフスキル教育プログラム。(日本誕生学協会HPより)http://www.tanjo.org/index_2.html
*2 バースコーディネーターとしてのメンタリティーなど、文書を読むだけでは伝えきれないことを伝授するレッスン。