さらさら楊柳

昨年、春から夏にかけて北極しろくま堂の直営店店頭でお客様から頂いた「スリングをしていると赤ちゃんが暑そう」「もっと通気性のよいものがほしい」という声。密着すればするほどお母さんの体への負担は少なくなり、だっこが楽になるキュットミー!ですが、その「密着するということ」に暖かい季節は少し躊躇される方も多いようです。

播州織(ばんしゅうおり)

兵庫県北播磨地域で200年以上製造され続けている先染め(糸を染めてから織る技法)織物。

播州織ロゴ

そこで、北極しろくま堂では、強度面での安全性を保ちつつ、暖かい季節もキュットミー!を快適に使っていただけるようにと考え、2009年2月、新しいオリジナル生地が生まれました。
生地に採用したのは兵庫県北播磨地方産の「楊柳(ようりゅう)」。
この楊柳地は、夏場のパジャマなどにも使われる生地で、独特のしわ加工で布地の肌への接地面が少なくなり、汗をかく季節でも非常に気持ちよく感じられます。また、寒い季節もしわ部分に暖かい空気をためるので暖かみがあり、赤ちゃんをだっこするのに十分な強度もあります。
北極しろくま堂では和のテイストの楊柳を、これまでもおんぶひも(兵児帯)やキュットミー!に使用してきました。そこで今回はこれまでの楊柳とは少し違った雰囲気の、格子でかわいい色使いのオリジナル生地を作り上げました。

今回織り上がったオリジナル生地

揚柳の製造工程

今回、その揚柳ができあがる工程を見学してきました。その様子を3回に分けてリポートしていきます。

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4万色から選ばれる糸の色

第一回目は糸の染色工程です。
生地の染色には「先染め」「後染め」があります。
「先染め」というのは先に糸を染色してから生地を織る技法。北極しろくま堂商品では、キュットミー!のしじらやグランデ、ダンガリーなどがそれにあたります。
「後染め」というのは生地を織った後で染める技法。こちらは、おんぶひものデニムなどです。
楊柳は「先染め」織物です。紡績工場から届けられた新(さら)の糸が最初に通る工程、それが染色です。

測色

今回楊柳の糸を染めていただいた染工場さんでは、なんと4万色もの色をコンピューターで管理しているそうです。まず依頼主からのオーダーの色を工場で管理している4万色の中から一番近いものを測色します。

染色前の糸

染料の調合

はじきだされたデータを元に職人さんが色の種類と染料の量の決定を行い、小さなビーカーで少量の糸を試験的に染めます。これをビーカー見本といいます。ビーカー見本を職人さんの目でしっかり検視した後、分量を決定します。それを元に染料を量ります。こうして染料が調合され、染色に使用する染料ができあがります。

染料

染料の調合

染料の分量を量る機械

今回色の決定のために作成されたビーカー見本

今回は特に色の質感にこだわりたかったため、織りの設計図が決定した後で一度ビーカー見本を各色2種類ずつ作成してもらい、糸の色を北極しろくま堂が最終決定した上で注文をかけました。

染色

調合された染料を用いて、染色釜で染めてゆきます。糸は巻き付けてありますので、普通に染めると、外側のほうが濃く、内側は薄く染まってしまいます。そこで、温度を上げたり下げたりすることによって、染めムラができないようにします。

染色釜

染色の様子

染め上がった糸

一口に赤といっても様々な赤があり、赤一色で染め上げることはまずありません。青を足したり、黄を足したりします。この時も「ネイビー」を染め上げているところでしたが、釜の中の水の色は赤っぽいものでした。何種類もの色を重ねて、一つの糸を染めていきます。

貯水槽

「この播州織りの風合いが出せるのは、この水があるおかげ」

染工場のすぐ近くには加古川が流れています。この加古川から引いてきた水と井戸水を混ぜ合わせ、工場の外にある貯水槽にためておきます。その貯水槽の水をph調整し、中性にして染色に使用します。
色の出方は水質により全く違うそうです。このきれいな水があるからこそ、播州織りならではの「優しく、潤いのある」色ができあがるのです。

検視

染め上がった糸は職人さんが検視します。この検視する場所は広い工場の中のこの一室だけです。検視室は必ず明るすぎず陰ができるような北窓と決められています。こちらの工場では検視する職人さんは2、3人に固定されていて、できるだけ同じ人が同じ蛍光灯下で検視を行います。この検視ができるようになるまで、最低10年の経験が必要となります。検視の職人さんは色を見るだけでなく、検視後「これはオーダーと違うので、何番と何番の染料を何グラムずつ追加する」という修正指示をだします。染工場にくる依頼は「こんな色に染めて下さい」というものではなく、「こんな柄にしたいから、糸を用意して下さい」というもの。よって仕上がりまで見通した上で糸の選定をしていかなければならないのです。
こうしてまた指示通り調合された染料を釜に入れ、もう一度染めていきます。

色の検視室

これまでオーダーされたものが全てファイルされているという、糸のサンプルを見せていただきました。「これとこれは違う色です」と言われましたが、素人には全く見分けがつきませんでした。コンピューターでは読み取れないくらいの微妙な違いを目で検査できる職人さん。本当に経験がものを言う世界です。

このような過程が何度も繰り返され、ようやく一本の糸が染め上がります。

エコへの取り組み

播州織の数軒の染色工場では、染色工程で出る鉄分の含まれた汚泥を有機肥料に変えて販売を行っているそうです。これまで神戸港に埋め立てていた汚泥を有効な肥料に変えるという画期的なものです。古くから伝わる播州織を今の世にも残していきたいという工場の方々は、こうした環境に配慮した試みにも積極的に取り組まれています。

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一本の糸の中に隠された細かな仕事

お客様の声から生まれた新しいオリジナル楊柳(ようりゅう)生地。
前回は、この生地に使われる糸が染色される工程をご紹介しました。今回は楊柳(ようりゅう)素材を作る時に欠かすことのできない糸の撚(よ)りの工程に注目します。

肌触りがさらっとして、見た目にも涼感があり、風通しも良い素材の楊柳(ようりゅう)地は、柳の葉を重ねたようなタテに入ったしわがその特徴です。このしわのことを「しぼ」と言います。このしぼのおかげで暖かい季節は快適に、寒い季節も暖かく着用できるというのは前回お伝えした通りです。
このしぼを出すために必要不可欠なのが、「強撚糸(きょうねんし)」の工程です。
タテ方向の糸を経糸(たていと)、ヨコ方向の糸を緯糸(よこいと)といい、この経糸と緯糸によって生地は構成されています。

そもそも一本の糸というものはとても細い繊維を束にしてねじり合わせ作られます。その繊維を束にまとめる際に撚(よ)りをかけます。
楊柳では緯糸(よこいと)に「強撚糸(きょうねんし)」を用いることで、しぼが生まれます。強撚糸というのは、糸を撚(よ)る回数を通常より多くした糸です。ヨコ方向に強撚糸を用いて織られた生地は、仕上げ加工を施されると、緯糸(よこいと)の強撚糸の撚りが戻ろうとする力で布がヨコ方向に少し縮み、それが楊柳独特のしぼを生みます。

仕上げ加工前の生地

仕上げ加工が施され、しぼが生まれた生地

さて、今回のオリジナル楊柳地では、経糸(たていと)には60番手の双糸の糸(糸の番手は太さを表しています。数字が大きくなるほど糸は細くなります。)を使用しています。以前しじらのはなしでも取り上げたように、今回の楊柳地でもスリングの強度のことを考えて、経糸には30番手の単糸ではなく、同じ太さでも強度はより強くなる60番手の双糸を使用しました。

糸を撚る場合、通常は撚糸工場で行います。播州織の産地の兵庫県北播磨地方では、撚糸工場が数多く立ち並びます。

撚糸工場。ずらっと並んだ撚糸機が絶え間なく動いている。木製の床が歴史を感じさせる。

強撚糸には非常に時間がかかります。今回の楊柳に使った糸は、1mあたり600回転の撚りをかけており、一巻き終わるのに約3日間かかるそうです。一度撚糸機にかけられた糸は、夜間も休みなく撚り続けるので、撚糸工場の機械は深夜も作動していることが普通なのです。



撚りをかけている様子

撚りが終わった糸は最後に高い温度に設定された高圧釜で、真空状態で蒸気を入れます。これをすることにより簡単に撚りが戻るのを防いだり、生地を織り上げる時に糸を切れにくくします。

高圧釜。ダンボールのままの状態で構わないが、一度釜に入れたものと入れていないものとでは、その後の加工にかなりの違いが出る。

今回の新しい楊柳地は、その独特のしぼ感が生地の風合いをより美しいものにしています。細い一本一本の糸が作り出す風合いを実際に手に取って感じていただければ幸いです。

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経験が生み出すオンリーワンの風合い

オリジナル楊柳の糸に施される繊細な仕事をご紹介してきた前回まで。連載最終回はその糸がいよいよ織り上げられます。
撚糸(ねんし)工場で強撚(きょうねん)に仕上げられた糸はその後のり付けされ、織工場へ運ばれます。

ちぢみを予想

楊柳(ようりゅう)という生地は前回取り上げた強撚糸(きょうねんし)で織られるため、織り上げた布に仕上げ加工を施すと大きくちぢみます。糸を張った状態で織り上げた時の「織り上げ巾」と、仕上げ加工を施した後の「仕上げ巾」の差が大きければ大きいほど「しぼ(しわ)」が大きく出て、暑い季節も寒い季節もより快適に使える楊柳地に仕上がります。この布のちぢみを予測して織り上げていくのが織物工場の職人さんです。その経験から、仕上がりの様子までを頭に思い描いた上で糸を織機にかけるのです。

仕上げ加工後の楊柳地

織り上げた直後の楊柳地

強撚糸=糸の撚り(より)回数が多い糸。緯糸(よこいと)に強撚糸を用いることで、楊柳には欠かせないしぼが生まれる。詳しくはこちら

しぼ=楊柳地の特徴であるしわのこと

筬(おさ)の決定

くしの歯のような部分が筬。間に緯糸が一本一本通っている。

今回織工場の職人さんが製織の注文が入った時点でまず行った事が、「筬(おさ)」の手配です。「筬」というものは、織物の幅や経糸(たていと)の密度や配列を定めたり、緯糸(よこいと)を打ち込んだりするために織機には欠かせない道具です。

今回の楊柳地の場合、織りあがった後の仕上げの工程で約7cmは縮むことを職人さんは想定しました。設計では約130cmの生地なので、約137cmに織りあがるように考える訳です。この137cmは織りあがった布をロールに巻き付けた状態の幅です。実際経糸(たていと)に緯糸(よこいと)を通して織りあげていく段階では強撚糸が完全にピンと張っているので、さらに幅のある142cmの幅の筬が必要となると判断されました。

全ての長さの筬が工場にある訳ではありません。142cmというサイズは比較的大きなものなので、今回は糸の番手(太さ)や強撚具合を考慮した職人さんがちょうどいいサイズの筬を手配しました。

糸をピンと張った状態で織っている様子

糸のセット

筬が届いたところで、織機を動き始めることができるように糸をセットしていきます。このセットするのに要する時間が今回の場合は1日かかりました。この糸のセット作業は伸縮のない平織りの場合は3時間程度で終わることもある作業なので、今回の生地にかかっている手間が非常によく分かります。

経糸(たていと)

織機にセットされた経糸

製織

糸がセットされれば、いよいよ生地が織られていきます。今回使用した織機は電子カム式のエアー織機というもの。緯糸(よこいと)が空気の力で運ばれていきます。昔よく使われていた力織機に比べ、メンテナンスが楽にはなったとはいえ、職人さんは動いている最中も何度もチェックを行います。織機や、それを調整する職人さんが違えば仕上がりの生地の風合いは全く違ってくるそうです。「楊柳は織り上げてみるまで分からない。」という職人さん。しかし、経験からその織り上がりの様子を頭に思い描いて筬選び、糸のセット、機械の調整を行っていきます。

こうして仕上がった生地は仕上げ加工が施された後、縫製工場へ送られキュットミー!として縫い上げられ、製品が完成するのです。

(縫製工場の製造風景はこちら

それぞれの工程でこだわりを持った職人さんがいたからこそ生まれた今回の楊柳 クレープ/チョコトリコのオンリーワンの風合い。
赤ちゃんを包み込むその格子柄は、職人さん達の想いもつまって一層やわらかい印象となっているのかもしれません。

キュットミー! 楊柳 クレープ/チョコトリコの製品はこちらをご覧下さい。


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